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 やっとのことでたどりついたのは、宇陀と吉野の境に位置する、牧の里。

「ごめんください。おぼえておいででございましょうか。都で、九条院の御殿におつかえしており ました、常盤でございます。」


 家のあるじ、源蔵が戸を開けると、寒さにこごえ、足から血をにじませた親子の姿がありました。

「おお、常盤御前………。わこたちも、なんとおいたわしい。」
そういったきり、黙り込んでしまいました。


 もし、義朝のつまや子をかくまったということが知れれば、どんな目にあわされるか。‥‥‥けれど、乳飲み子をかかえ、雪にぬれて立つ常盤をみては、すておくことなどできません。
源蔵は、親子を家の中へとまねきいれたのです。

「さあ、いろりのそばへおいで。」
チロチロと燃えるまきの火をみて、子どもたちは声をあげました。
源蔵の妻は、いそいで粥をあたためました。
「うんと食べて、元気をだしてくださいね。」
体のしんからあたたまるようなやさしさにふれて、常盤は都をはなれてからはじめての涙を流しました。