「鶴姫哀歌」序曲 |
今から、およそ800年前のことです。
壇ノ浦の戦いに敗れ、わずかに生き残った平家の一族は、ちりぢりになって西日本の各 地へと落ちのびてゆきました。
「平家の一族を、一人ものがすな。」
という幕府の命令によって九州につかわされたのが、有名な那須与一の弟、那須大八郎でした。
何ケ月もの捜索によって、九州の山深い里、椎葉村にひっそりと暮らす、平家の一門を見つけました。
椎葉にたどり着いたとき、大八郎は、一門のつつましい暮らしぶりを見て胸を打たれました。あの栄華を極めた平家の人々が、木の実や草の根を食べて、必死で生きているのです。
「ああ、どうしてこの人たちを殺すことなどできようか。」
しかし、幕府の命令にさからうことはできません。大八郎の迷いはつきませんでした。
決心のつかぬまま、一門の人々といつしよに暮らすうちに、大八郎は一門の美しい娘、鶴姫に恋をしました。鶴姫も、大八郎のやさしい人柄にひかれてゆきました。いつ幕府に知られるか、不安を抱きながらも、二人は山里での幸せな日々を過ごすのでした。